Podcast番組を聴いていると番組毎の音量差を感じることはないでしょうか。現在音声や動画の配信は「ラウドネス」という聴覚上の音の大きさを表す指標を基準に音量調整することを推奨しています。音量を上げようとしても0dBFSを越えてはならない為、頭打ちになります。頭打ちになれば小さい音は小さいなりで底上げされにくい。その為波形の大きい部分をグイと押しつぶし、できたゆとりの分音量を上げます。最大と最小の音量差を「ダイナミクス」と言いますが、ラウドネスを上げようとすればダイナミクスは下がるという関係性になります。ラウドネスとダイナミクスのバランスも考えておきたいポイントです。
- 推奨されるラウドネス値(抜粋)
- Apple Podcast -16LUFS
- Spotify -14LUFS
- YouTube -14LUFS
- テレビ放送 -24LUFS
音の大きさを調整する方法もいくつかのアプローチがあり、その組み合わせ方で結果は大きく変わっていきます。
ゲイン調整、フェーダー調整
一番基本となる音量調整はゲイン調整やフェーダー調整です。音量の大小はそのままに調整します。特にプラグインなどを必要とせず、収録された通りのイメージを維持したままで音の大小を調整できる機能なので、ノイズが少ない音源ではまずはゲイン調整をしても良いでしょう。
また、EQやコンプレッサー等の処理をした後、他の音声トラックとのバランス調整にも使われます。やはり、処理済みの音声のイメージは維持したままで音の大小を調整できる為便利です。
リミッター
一定の値以上に大きい音声の頭を押さえつける様に制限するのがリミッターです。ゲインを上げてピークを越えた分をリミッターで制限してやれば、音の破綻のない状態で音圧を上げることができます。ただし、機能としてはシンプルでリミッターだけで音量を調整するのは少し不便な面もあるので、リミッターは主に「ピークオーバーを抑制する為」に使うと考えておいて良いでしょう。
コンプレッサー
コンプレッサーについてお話しをする前に、テレビを見ているときの事を想いだして下さい。テレビを見ているときにCMの音量がやたらと大きいと感じることはありませんか?その時皆さんはリモコンを手に取りボリュームを下げると思います。そしてCMが終わると再びリモコンでボリュームを上げる。この時のあなたの動きが「コンプレッサー」です。
機能的にはゲイン調整とリミッターの機能を複合させた物がコンプレッサーです。大きな違いはリミッターの掛かり具合が調整できる事。レシオと呼ばれる圧縮比(レシオ)を設定するのが一般的で、「4:1」という様に表記される。「4:1」は設定値=閾値(スレッショルド) を超えた音量を原音に対して4分の1に圧縮するという意味です。
リミッターでは閾値(スレッショルド)の辺りで天井に頭をぶつけたように押さえつけられる波形が、コンプレッサーでは指定した圧縮比に応じてもう少し自然に音の上限を抑えてくれる。閾値と圧縮比で0dbまでのスペースを拡げ、拡げた分を持ち上げる事で全体の音量感=音圧を上げるのがコンプレッサーの使い方です。
マイクを使った収録になれていないと主体性を持って話をしている時の音量と、頷きなどの会話の添え物で大きな音量差が出てしまう場合があります。そんな時はコンプレッサーを使用し、「大きな音を優しく抑え、小さな音を聞き取りやすく」という調整が有効です。
閾値は音源に合わせて調整するが、圧縮比は「2:1」から「4:1」位を基準にして調整を初めて見ると良いでしょう。
マルチバンドコンプレッサー
前述のコンプレッサーに「周波数帯によりかけ方を変える」という機能が付加されたのがマルチバンドコンプレッサーです。例えばコンプレッサーでは低音部も高音部も均一に影響を受ける。するとコンプレッサーを掛ける前には気にならなかった低音部が強調されて聞こえたりします。強調された低音はEQで再調整します。そんな場合にマルチバンドコンプレッサーなら「低音部は圧縮比を2:1、閾値を-12dbに、それ以外は圧縮比を4:1、閾値を-22dbに」という様に掛け分けることができる。
この機能を使うことであたかもEQで整音している様な効果も期待できます。使いこなしが難しいのでコンプレッサーではどうしてもイメージする音に近づけられない場合に試して見ると良いでしょう。
オートメーション
ここまではどちらかと言うと「設定した値を基準に調整する」という機能を紹介しました。オートメーションとは手動でフェーダーを動かし、そのフェーダーの移動の記録する機能です。記録したフェーダーの移動は再生に合わせて再現されるので設定値などに依らず意図した音量を音源に再現する事ができる。
楽曲制作では多用される方法の様ですが、音声配信でこれを手動でするのは骨が折れる作業です。オートメーションを自動で調整してくれるWaves社のVocal Riderというプラグインもあるので参考にしてください。オートメーションも使いこなしが難しい機能なのでコンプレッサーやリミッターでは調整しきれないところで使うものと考えておいて良いでしょう。
ラウドネスメーター
上記の調整の結果、どれ位のラウドネス値になっているのかを確認する為に必要なのがラウドネスメーターです。DAWに標準で搭載されている場合もありますが、プラグインにも使いやすいものがあります。結果的に期待するラウドネス値に収まっているかどうかの判断ができなければ調整しても「何となくよさそう」という事になるので、早めに使える様にしておきたい機能です。
海苔波形
余談になりますが、「海苔波形」という言葉をご存じでしょうか。コンプレッサーで音圧をドンドン持ち上げていくと波形の大小がなくなっていき朝食に出てくる味付け海苔のように「横長の帯の様に見える」ためにこう呼ばれます。確かに音圧は高いのだが、やり過ぎの一例と言えます。ラウドネス値を見つつも、余りダイナミクスがない音声=海苔波形にならないよう気をつけると良いだろう。
音圧競争が過剰なCD楽曲などはラウドネスが1桁のものも非常に多く、ラジオ局でCDから音楽を流すときは-30dB?-40dBくらいまで下げないと0VUを超えてしまうのだそうです。ラウドネスが上がればダイナミクスは下がる、ダイナミクスが上がればラウドネスが下がる、そういう関係性です。